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東京地方裁判所 平成8年(タ)4号 判決

主文

一  原告と被告との間の平成三年九月三〇日中華人民共和国婚姻法の定める方式に従って婚姻登記がされ、結婚証の交付を受けたことによって成立し、同年一一月六日東京都墨田区長に対し右結婚証の提出がされた婚姻が、無効であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二請求原因

1  原告と被告との間に、平成三年九月三〇日中華人民共和国婚姻法の定める方式に従って上海市人民政府(婚姻登記管理機関)に対して婚姻登記を申請したとして婚姻登記がされ、結婚証の交付を受けて婚姻が成立したこととされている。

2  原告は、同年一一月六日、東京都墨田区長に対し、中華人民共和国の方式により婚姻をしたとして右結婚証を提出した。

3  被告は、原告と婚姻をする意思をまったく有していなかったのに前記のとおり婚姻登記を申請したものであり、右婚姻は無効である。

4  よって、原告は被告に対し、右婚姻が無効であることの確認を求める。

第三理由

一  被告は、公示送達による呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。

二1  その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定される甲第一ないし第三号証、その方式及び趣旨により外国の官庁又は公署の作成に係るものと認められるから真正な外国の公文書と推定される甲第四号証並びに原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第五ないし第一一号証(枝番号を含む。)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、結婚相手を探していたところ、訴外a会なる団体(以下「a会」という)が結婚相手を紹介するとの記事を雑誌で読んだのをきっかけに、平成三年六月二四日、右a会に入会した。

(二) 原告は、平成三年七月一三日、右a会の指示により上海に行き、そこで被告を含む数名の女性を紹介された。原告は被告を結婚相手として好ましいと思い、a会の職員を通じ自らの意思を伝え、被告は直ちにこれを承諾した。その直後、原告は右a会の会長と称する者(以下「会長」という)に婚姻届用紙一枚に署名を求められ、被告と共に署名捺印した。原告は、その後、被告の実家という場所に連れていかれたり、被告やa会の職員らと共に夕食を食べたりしたが、その間被告とは一言も話をしなかった。

(三) 原告は、a会の職員から、結婚するためには上海市の医師の診断書が必要であると指示され、平成三年九月一日から四日まで上海を訪れ、被告の指輪のサイズを計るなどしたが、その間、原告と被告は一言も話をしなかった。また、原告は、被告と二人で上海市内に買物に行き、被告にブレスレット等を買い与えたが、買い物の際、原告が被告の肩に手を触れたところ、被告は原告をにらみつけた。原告と被告が上海で二人だけで行動したのは、前後の滞在を含め、この一度だけであった。

(四) 原告は、中国における結婚証の交付を受けるため、平成三年九月二九日から一〇月一日まで上海を訪れた。同年九月三〇日、原告と被告は、上海市人民政府婚姻登記管理機関を訪れて婚姻登記の申請をし、婚姻登記がされた後、結婚証の交付を受けた。原告は、右結婚証がどのようにして作成されたかは理解できなかった。原告は、滞在先のホテルで、被告に対し用意した指輪を渡そうとしたが、被告は受取りを拒否した。a会の会長が通訳を介し指輪をはめるよう指示したところ、被告は指輪をはめてみて、サイズが合わないといって原告に返した。原告は、指輪をはめることを拒否したり、肩に手を触れようとしただけで原告をにらみつけたりする被告の行動から、被告は原告に対し全く愛情を抱いていないと感じるようになった。

(五) 平成三年一一月初め、原告は、a会からの連絡で日本で婚姻届を出すように言われ、前記(二)の婚姻届用紙を持参してa会の事務所を訪れ、職員らに証人欄に署名してもらった。同年一一月六日、原告は、墨田区役所に行き、前記(四)の結婚証を、右署名済みの婚姻届用紙とともに提出した。

(六) 平成四年二月、原告は、a会からの連絡を受け、同年二月一八日、上海に被告を迎えに行った。上海のホテルで、原告は被告に再度指輪を渡したが、被告は受け取ろうとしなかった。同年二月二〇日、原告、被告、被告の親族及びa会の職員らが同席して被告の送別会が開かれたが、原告は、被告や被告の親族とは一言も言葉を交わさなかった。

(七) 同年二月二一日、原告は、被告と共に飛行機に搭乗し、日本に帰国した。飛行機の中で、被告は機内の中国人らしき数名と雑談し、原告とは全く言葉を交わさなかった。原告は、成田空港到着後、原告の荷物と共に、被告の荷物を宅配便に預けたところ、被告は、怒った表情で原告をにらみつけた。その後、原告と被告は原告の実家に挨拶に行った。原告の父が、被告が指輪をしていないことに気づき、指輪をするよう身振りで伝えたところ、被告は、指輪をはめたものの、きついといった身振りをし、すぐにはずして原告に渡した。原告と被告は、原告の実家で食事をした後、原告が借りていたアパートに行った。右アパートで、被告は毛布にくるまって部屋の片隅にうずくまり、原告をにらんでいたので、原告は被告に近寄ることすらできなかった。

(八) 同年二月二二日、成田で宅配便に頼んだ荷物が原告の実家に届いていたので、原告と被告はこの荷物を持って前記アパートに行った。到着後、原告はすぐに眠くなり、眠ってしまった。この間、被告は、日本語で、「寝なさい、寝なさい。」と言っていた。翌二三日午前二時ころ、原告がタクシーの音を聞いたような気がして目が覚めると、被告は荷物と共にいなくなっていた。被告は、原告の母親が新婚生活のために買っておいた被告用のトレーナーをはじめサンダルなど細かい生活用品に至るまですべて持ち去っていた。原告は、被告の行方を探したが、全く所在はわからなかった。原告は、被告の失踪により、被告は単に来日する目的で原告と結婚したものであり、原告と結婚する意思がなかったものと確信するに至った。

2  以上認定したとおり、被告は、原告と初めて会ったときから姿を消すまで、一貫して原告を無視し続け、原告と全く会話らしい会話もせず、原告との身体的接触をかたくなに拒否し、結婚指輪を指にはめることすら拒否し続け、来日後、中国から持参した荷物を手に入れて失踪が可能になった直後に失踪しているのであって、右事実からすれば、被告が原告に対する愛情を全く抱いていなかったことはもとより、原告と社会通念上の夫婦としての生活を営む意図が全くなく、原告との結婚を単に来日のための具として利用し、来日後速やかに姿をくらます計画であったことは明らかであり、被告が、原告と婚姻をする意思を有していなかった事実が認められる。

三  婚姻の実質的成立要件は、法例一三条一項により各当事者の本国法によるが、婚姻意思の欠缺は一面的婚姻障害であると解するのが相当であるから、婚姻意思を欠く当事者の本国法、すなわち本件においては被告の本国法である中華人民共和国の法律により決せられるところ、同国の婚姻法四条、七条及び婚姻登記弁法六条(2)、同九条は、婚姻は当事者双方の自由意思によることを要すること、当事者は自ら婚姻登記機関に出頭して婚姻登記を行わなければならないこと、自由意思によらない婚姻登記の申請があった場合、登記は許されないこと及び婚姻登記機関は婚姻当事者に婚姻法に違反する行為があり、あるいは登記のときに虚偽を弄したときは婚姻の無効を宣言できることを定めており、右各規定によれば、同国の法令は、婚姻をする意思を欠く婚姻を無効とする趣旨と解される。被告に原告と婚姻をする意思がなかったことは前記認定のとおりであるから、原告と被告の婚姻は無効である。

四  以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙世三郎 裁判官 小野憲一 裁判官 前澤達朗)

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